「冬眠しないヒグマ」がいるというのは本当?

生き物

札幌市内をはじめ、北海道内のあちこちに生息している「ヒグマ」。道内の厳しい冬を乗り越えるために、ヒグマは通常秋の終わりから春にかけて長期間「冬眠」を行うとされています。

一方で、ヒグマに関する目撃情報や事故に関する事例を見て行くと、あくまでも「極めて少数」でありながら、冬のシーズンにヒグマが活動しているケースが確認されます。すなわち、冬眠しているはずの時期に、冬眠をしていないと推定されるヒグマが、わずかながらいるということです。

当ページでは、そんな「冬眠をしないヒグマ」について、考えられうる理由(ケース)などを解説していきたいと思います。

「穴持たず」で冬眠していないケース

冬にうろうろしてしまうヒグマについては、一般的に使われているキーワードとして「穴持たず」というものがあります。
これは、要するに「冬眠をし損ねて・冬眠が遅れて」その結果「冬眠穴を持っていない(入っていない)」クマという意味です。

穴持たずのヒグマとなってしまう要因としては、冬眠に向けて「大量の食べ物」を食べて「エネルギー・栄養分・脂肪」を蓄えるという「ヒグマの秋のルーティーン」が上手く出来なかった場合が多いとされています。

秋は一般にドングリ・サルナシ・ヤマブドウといった木の実・果実が豊かな「実りの季節」であり、通常であればそれらを十分に食べて栄養をつけることが可能ですが、「実なり」が特に悪い大凶作の年などには、十分な「食事」が出来ないまま冬に突入してしまうケースもゼロとは言えません。

そのようなヒグマは、一部は冬に入っても冬眠期間になかなか入らないまま過ごす形になり、冬場は食べ物に一層ありつきにくい時期となることから、「狂暴化」することがあるとも言われます。ヒグマがもたらした人身被害としては日本史上最悪とも言われる「三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)」も、12月に入ってからも冬眠していなかった「穴持たず」のヒグマが起こした「熊害」とされており、三毛別羆事件を解説する文章には「穴持たず」というキーワードが頻出しています。

但し、「穴持たず」と呼ばれる状態については、冬にもまれに活動しているヒグマに与えられる一般的な名称で、その要因などが全て詳しく分析されている訳ではありません。また、冬の間ずっと冬眠をしていない訳ではなく、冬眠が遅れているだけの場合も考えられます。
後述する通り、栄養不足だけではなく「食べ物が十分にある(栄養状態がよい)」結果冬眠が遅れる。という形もあるため、一概に「穴持たず=必ず栄養不足」と決めつけない方がよいでしょう。

なお、「穴持たず」に関して書かれたいくつかの文章では、その要因が「体が大きすぎて穴に入れないから」とされている場合もありますが、ヒグマは自らの手で穴を掘って「冬眠穴を建設」する能力を基本的に備えていますので、仮に体が大きかったとしても、それだけで冬眠をしないことはやや考えにくいと言えるかもしれません。

エサが確保できるので冬眠していない(冬眠が遅れる)ケース

冬眠をしない理由としては、冬眠を「し損ねた」結果、冬場もうろうろしてしまうヒグマも存在するかもしれませんが、むしろ「食べ物(エサ)」が確保できるから、「栄養状態が良い」から冬に入っても冬眠になかなか入らない。というケースも起こり得ます。

例えば近年は「エゾシカ」の頭数がかつてと比較して極端に増加しており、頭数が多い=死骸なども多いため、ヒグマがエゾシカの肉などを入手しやすい環境が生まれています。

また、どんぐりなどの秋の食料が「豊作」であった年については、食べ物を確保しやすく栄養状態も良好なため、冬眠が遅れる可能性が考えられます。

雪が積もる時期が遅い年や、例年と比べて気温が高い年も、気候面のみならず、エサが入手しやすい環境と言えるため、ヒグマの冬眠が遅れたりする可能性がまれにあると言えます。

北海道の場合、「寒くならない冬」や「山に雪がない冬」は記録に残る限り存在しないため、冬眠をしないヒグマが多数発生するようなことはありませんが、その秋の「食糧事情」などにより冬眠時期が左右されることは十分あり得ますので、結果として12月などにもヒグマが目撃されることがあります。

なお、「冬眠をしない」と「冬眠が遅れる」では、その状況は大きく異なります。極めてまれに冬の間冬眠をしなかった。というヒグマも存在するかもしれませんが、より確率が高いのは、エサがあって栄養状態も良いため「12月以降」も冬眠をせずに過ごし、「1月に入ってから」もしばらく目撃されるような「冬眠がかなり遅れる」ヒグマと言えるでしょう。

途中で目が覚めるケース

冬眠をしないケースというものではなく、冬眠を「していた」けれども、何らかの理由で早く目覚めてしまい、外に出て来る。こういったケースも一つの可能性としては考えられます。

冬眠中に途中で目覚めるケースで考えられる要因としては、可能性は高いとは言えませんが、工事・登山など人間の出す音・雪崩の音や振動などで強制的に目覚めてしまうケース、また気温が急上昇して冬眠穴の中の環境が変わってしまい、目覚めて別の滞在場所を探しに行く。といったケースなどが考えられます。

ヒグマの冬眠自体は、体の活動レベルは大きく下がっている(排泄などは一切しない)にも関わらず、極端に深い眠りであるとはされておらず、大きな物音や急速な気温変化などで目が覚める可能性はあります。

特に近年は「暖冬」が増えているほか、3月の気温上昇は冬以上に急速な温暖化傾向が見られます。冬眠から早く目覚めて活動を開始するヒグマが増えている可能性もありますので、一定の注意が必要と言えます。

冬山登山は一般にヒグマ遭遇リスクが低いというイメージが強いものですが、雪でクマの冬眠穴に気づいていないだけで、歩いているすぐそばでヒグマが冬眠している可能性はあります。積雪が多い冬や早春だからといって「絶対の安全」はないことは、十分頭に入れておく必要があるでしょう。

冬眠は「絶対に必要なもの」ではない

そもそも、ヒグマにとって「冬眠」は必ずしも「どんな条件でも」必要なものかと言えば、実はそうではありません。

最もわかりやすい事例で言えば、誰でも気軽にヒグマを見学できる「クマ牧場」では、道内であっても「冬に起きている」クマ達の姿が見られます。

冬眠というのは、「エサが確保できない」・「厳しい寒さと雪」といった北海道の冬の厳しい条件を「生き抜く」ためにヒグマの生活上の習慣のような形で必然的に生じるもので、そのメカニズム自体は完全に解明されているとは言えませんが、少なくともクマ牧場の例から明らかなように「冬にもエサが十分ある」ような環境では、必ずしも冬眠は必要ではありません。

もちろん、クマ牧場のヒグマであっても、冬になると食べる量が3分の1くらいに減ってしまいますので、冬眠を前提とした「体のつくり・リズム」が存在することは確かですが、だからと言って絶対に冬眠をしないと死んでしまう訳ではないのです。

まとめ

ヒグマは、基本的にほとんどの個体が冬場は「冬眠」しますが、極めてまれに冬眠をしていない個体が冬場に目撃されるようなことがあります。

冬眠をしていない理由は、栄養状態が悪く冬眠し損ねた・逆に栄養状態が良くエサが多いので冬眠の必要がないなど様々な理由が考えられます。

冬眠をしていないヒグマは「穴持たず」と呼ばれることがあり、過去には穴持たずのヒグマによる「三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)」が起こったことは広く知られています。

冬眠中のヒグマについても、確率は低いものの何らかの大きな音や振動・気温の変化などで目が覚める可能性があり、冬場に外に出てきてしまうことも考えられます。
冬山登山でのヒグマ遭遇リスクは極めて低いとされますが、「真のゼロリスク」はないこともまた事実です。

ヒグマにとっては、冬眠は「厳しい冬の気候」・「食べ物不足」を乗り越えるための生活上の必然的な行動であり、「クマ牧場」のように冬でもエサを食べられる場所では冬眠していないなど、「冬眠=どんな条件でも必須・不可欠」という訳ではありません。