北海道は、美しい自然に高い食料自給率など、日本における「地方の代表」のように扱われることが多く、実際にほとんどの土地はそのような特徴を持っています。
一方で、「人」の住まいや動き・「経済」・「都市機能」といったテーマから見て行くと、北海道は極端に「札幌一極集中」が進み、都市に住む割合が高い地域であることも確かです。
すなわち、北海道には「理想的な田舎」としての側面と、都市人口の割合が高い「都会化」が進み切った地域という2つの相対する特徴があるのです。
こちらの記事では、札幌市への「一極集中」が進む現状について、具体的なデータや各地との比較から、その実態を見て行きたいと思います。
北海道の人口に占める「札幌市」の割合は37.8%(2020年現在)
全国各地の都道府県庁所在地の人口が、都道府県の人口に占める割合を見た場合、年ごとの人口によりややずれが生じる場合がありますが、札幌市は概ね「15位」程度となっており、やや上位のグループに入ります。
但し、例えば東京23区が東京都全体に占める人口の割合が「7割」、仙台市が宮城県全体、京都市が京都府全体に占める人口の割合が「約5割」であるのに比べるとまだ特別大きな数字とは言えません。
北海道の面積に占める「札幌市」の割合は1.3%
都道府県の中に占める中心となる都市の人口割合では、札幌市は37.8%・概ね15位程度。この数字は必ずしも最上位ではないから「それほどでもない」と思われるかもしれませんが、北海道とそれ以外の都道府県の大きな違いはその「面積」にあります。
それほど面積が広くない都府県で、大きな都市の人口が占める割合が大きくなるのは、その地理的条件から考えればそれほど違和感はありません。例えば都内の人口のうち7割を占める東京23区は東京都の面積のうち3分の1程度を占めていますし、京都府の人口の約半分を占める京都市も京都府の面積のうち約2割程度を占めるなど、無視できないスケールを持ちます。
30%の面積に70%の人口・20%の面積に50%の人口が集まる地域と、1.5%の面積に37.8%の人口が集まる地域を比べてみると、集中の度合いは後者の方が大きいとも言えます。
札幌市の面積については、上記の記事で別途解説しています。
北海道の人口に占める「札幌大都市圏」の割合は50.5%(2020年現在)
札幌大都市圏の範囲 | 9市4町1村 札幌市・小樽市・ 岩見沢市・江別市・千歳市・恵庭市・北広島市・石狩市 当別町・南幌町・長沼町 新篠津村 |
人口合計 | 2,636,630人 |
道内人口に占める割合 | 50.5% |
札幌市ではなく、札幌市のベッドタウンとして通勤・通学の圏内に入っている地域としては、その地域の通勤・通学者のうち「1.5%」以上が札幌市に移動している地域をまとめた「札幌大都市圏」という地理的な区分があります。
範囲としては石狩・江別・北広島・恵庭といった札幌市街地から近い隣接地域のみならず、岩見沢・美唄・栗山といったある程度の距離があるものの、概ね1時間以内~1時間程度でアクセスが可能な範囲も含まれています。
この大きな範囲で見た場合、人口は札幌市よりも60万人以上多い約264万人、北海道内全体に占める人口の割合は、半数を超え50.5%となっています。
すなわち、北海道に住んでいる人の半数以上が、札幌に日常的にアクセス可能な範囲の自治体に住んでいることになり、北海道の広大な面積から考慮すればかなりの「一極集中」度合いであることが分かります。
人口の変化・増加率から確かめる「一極集中」


北海道の人口 | ←増加率 | 札幌市以外の人口 | ←増加率 | 札幌市の人口 | ←増加率 | 札幌市が占める割合 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1920年 | 2,359,183人 | ※ | 2,256,603人 | ※ | 102,580人 | ※ | 4.3% |
1925年 | 2,498,679人 | 5.9% | 2,353,614人 | 4.3% | 145,065人 | 41.4% | 5.8% |
1930年 | 2,812,335人 | 12.6% | 2,643,759人 | 12.3% | 168,576人 | 16.2% | 6.0% |
1935年 | 3,068,282人 | 9.1% | 2,871,741人 | 8.6% | 196,541人 | 16.6% | 6.4% |
1940年 | 3,272,718人 | 6.7% | 3,066,615人 | 6.8% | 206,103人 | 4.9% | 6.3% |
1945年 | 3,852,821人 | 17.7% | 3,593,219人 | 17.2% | 259,602人 | 26.0% | 6.7% |
1950年 | 4,295,567人 | 11.5% | 3,981,717人 | 10.8% | 313,850人 | 20.9% | 7.3% |
1955年 | 4,773,087人 | 11.1% | 4,346,467人 | 9.2% | 426,620人 | 35.9% | 8.9% |
1960年 | 5,039,206人 | 5.6% | 4,515,367人 | 3.9% | 523,839人 | 22.8% | 10.4% |
1965年 | 5,171,800人 | 2.6% | 4,376,892人 | -3.1% | 794,908人 | 51.7% | 15.4% |
1970年 | 5,184,287人 | 0.2% | 4,174,164人 | -4.6% | 1,010,123人 | 27.1% | 19.5% |
1975年 | 5,338,206人 | 3.0% | 4,097,593人 | -1.8% | 1,240,613人 | 22.8% | 23.2% |
1980年 | 5,575,989人 | 4.5% | 4,174,232人 | 1.9% | 1,401,757人 | 13.0% | 25.1% |
1985年 | 5,679,439人 | 1.9% | 4,136,460人 | -0.9% | 1,542,979人 | 10.1% | 27.2% |
1990年 | 5,643,647人 | -0.6% | 3,971,905人 | -4.0% | 1,671,742人 | 8.3% | 29.6% |
1995年 | 5,692,321人 | 0.9% | 3,935,296人 | -0.9% | 1,757,025人 | 5.1% | 30.9% |
2000年 | 5,683,062人 | -0.2% | 3,860,694人 | -1.9% | 1,822,368人 | 3.7% | 32.1% |
2005年 | 5,627,737人 | -1.0% | 3,746,874人 | -2.9% | 1,880,863人 | 3.2% | 33.4% |
2010年 | 5,506,419人 | -2.2% | 3,592,874人 | -4.1% | 1,913,545人 | 1.7% | 34.8% |
2015年 | 5,381,733人 | -2.3% | 3,429,377人 | -4.6% | 1,952,356人 | 2.0% | 36.3% |
2020年 | 5,224,614人 | -2.9% | 3,251,219人 | -5.2% | 1,973,395人 | 1.1% | 37.8% |
札幌一極集中の進み具合は、今現在のデータのみならず、「歴史」を見て行くとその「凄まじさ」がよりはっきりと実感されます。
北海道全体・札幌市を除く北海道内・札幌市の人口の変化を大正時代から令和の現在まで「国勢調査」のデータに沿って見て行くと、一貫して札幌への人口流入が続き、札幌市の「独り勝ち」または「独走」とも言える爆発的人口増加が続いてきたことが分かります。
北海道の歴史は、開拓の時代には道内のあちこちで開発が進み、戦後しばらくまでの期間は、地方部・現在の過疎地域を含めた「様々な地域・都市」で各種鉱業・漁業などの産業が盛んに行われる比較的分散した地域の構造がありました。
しかしながら、戦後の高度経済成長期以降は炭鉱産業などの衰退によって「札幌一極集中」化が進み、炭鉱産業などが無くなった後も「便利な札幌」への人口流出が続いた結果、現在のような状況になりました。
若年層が減って札幌への流入が減ると思われた近年も、生活利便性を考慮した高齢者層の札幌移住の傾向が強まるなど、人口減少時代に入っても一極集中の傾向は変わる傾向が見られません。
道内の大学生・大学院生の54.9%は札幌市に集中
北海道内の大学全学生数 | 9万0,240人 |
札幌市内の大学全学生数 | 4万9,506人 |
札幌市が占める比率 | 54.8% |
札幌一極集中は、人口以上に若年層の人の流れ、具体的には大学の学生数という点ではよりはっきりと示されます。
学校基本調査によると、北海道内の大学・大学院の全学生数9万0,240人に対し、札幌市の学生数は4万9,506人と、約54.9%もの学生が札幌市に集中しています。
人口の比率以上に大学の学生数は札幌への集中が顕著ですので、結果として卒業後もそのまま札幌に残るなどする形で、札幌への人口流入の流れを形作っています。
なお、大学は札幌から通える範囲内(江別市内・小樽市内・岩見沢市内など)にも一定の規模のものがありますので、それらを合わせてみた場合、札幌圏内に学生が占める比率はより大きくなります。
「年間商品販売額」は道内の54.1%を占める
北海道全道の年間商品販売額 | 16兆4552億2721万円 |
札幌市内の年間商品販売額 | 8兆9097億5225万円 |
札幌市の占める割合 | 54.1% |
札幌市の一極集中度合いが分かるデータの一つとしては、主に商業施設や一般の小売店舗、また卸売業者で販売された商品の「売上」合計額を表す「年間商品販売額」のデータです。
こちらでは、北海道全体の販売額16兆4552億2721万円に対し、札幌市は8兆9097億5225万円。北海道全体の半分を上回る商品の売上が、札幌市内で発生しているということになります。
こちらは、一見すると札幌市内に商業施設が数多く集まっている点が大きな要因に見えますが、実際の所「小売」だけで見た場合の販売額の比率は、人口の比率と大きな差はありません。札幌市の数字は全てが「卸売業」の売り上げが札幌に集中していることにより押し上げられており、札幌が道内における様々な「モノ」の取引の拠点になっていることがわかります。
但し、これについては札幌だけではなく、全国の各政令指定都市でも同じような状況となっていますので、札幌が「全国の大都市の中で」特別に一極集中傾向にあることを示すものとは言えません。
「経済総生産」で見た場合札幌「一極集中」は弱い?
北海道内の経済総生産/一人当たり総生産 | 19兆6,528億円/376.2万円 |
札幌市内の経済総生産/一人当たり総生産 | 7兆531億円/357.4万円 |
札幌市が道内で占める割合 | 35.9% |
札幌市については、人口や各種のインフラ、企業や学校などの拠点数、単純な「商業施設・小売店舗」の売り上げなどで見た場合、圧倒的な地位を築き「一極集中」が極まった都市と言えます。
一方で、「経済全体」で見た場合、確かに札幌市はその「規模」では道内最大の経済拠点、経済の中心であることに違いはありませんが、「人口1人あたり」や地域の規模に対する「経済力」そのものを見た場合、札幌はむしろ道内平均より低く、東京23区や大阪市・名古屋市のように他の追随を許さないような独走した「経済力」を持っているとは言い難い事実も見えてきます。
札幌の人口あたりの市内総生産が、他の地域を引き離すことがない理由はいくつか挙げられます。
名古屋・横浜・大阪・川崎をはじめ、多数の工場がある地域・コンビナートなどがある地域はそれだけでも巨大な経済力を持つことになるため、市内の総生産も多くなります。しかしながら、札幌市内には中規模の工業団地があるくらいで、札幌の主な産業と言えるほどのものはありません。
札幌の第2次産業の規模は、札幌より人口が大幅に少ないはずの仙台市・新潟市よりもかなり少なく、全国の政令指定都市としては最下位の規模となっています。
京都のような高度な技術を持つ製造業(京セラ・日本電産)各社、広島の「マツダ」のような世界的自動車メーカーもないため、何かに特化した第2次産業というものも存在しません。
道内で見た場合、苫小牧市・室蘭市(胆振管内)に各種の第2次産業が集中しているため、人口あたりの経済規模で見た場合、胆振地方の一人当たり総生産は札幌より2割以上高い実態もあります。
札幌と同じく同じく工業が盛んでない都市としては福岡市がありますが、こちらは札幌よりも若年層の人口比率が大きい上、スタートアップなども大変盛んで、九州という北海道の2倍以上の人口規模・市場を持つ地域の中心都市である「アドバンテージ」があります。
結果として福岡市は、各種のビジネスが札幌よりも活発となり「工業の弱さ」を完全に補っており、他の地域と比べて経済活動が非常に活発な都市となっています。
一方、札幌市は北海道の拠点であるためビジネス面での優位性はありますが、それが「工業の弱さ」を補うほどにはなりません。結果として、道内で見ても経済規模は大きくても、人口あたりで見た場合に優位になることはないのです。